活 動活動記録
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「ファイナルマッチ ノーサイドの時を迎えて」 刊行によせて

2003年4月28日
大元夏樹氏著
「ファイナルマッチ ノーサイドの時を迎えて」
〈文芸社刊〉

ラグビーの後輩、感性フォーラムにも参加した、大元夏樹氏が本を出版しました。
出版にあたって推薦文を頼まれこんな文章を書いてみました。


 「ラグビーは少年を最も早く男にし、男にいつまでも少年の心をいだかせる」フランスの金髪の名フランカー、ジャン・ピエール・リーブの言葉である。
 ラグビーは、私自身にも、楽しさや、沸き立つような興奮、時には痛さや苦しさ、悔しさを与え、そして喜び、涙、感動を与えてくれた。ラグビーを通じて男の世界に触れ、身体を張る事を覚え、何かにかけるという事を学んだ。人生そのものを教えてくれたと言っても過言ではない。ラグビーで学んだ事は、今も心の中に熱く燃えている。
 私が大元氏に出会ったのは、昨年の11月、神鋼ラグビー部の後輩達と飲みに行った時のことだった。その時のラグビーを語る彼の目の輝きが印象的だった。今の印象からは意外だが、彼は中学時代まで相当に手のかかる生徒だったようだ。本当は純で、感受性が強く、寂しがり屋で、そのくせ素直になれずに突っ張ってしまう、この本の主人公「杉村良樹」はまぎれもなく彼自身のことである。
 良樹の不器用さはそのまま私の青春時代とも重なる。鮮やかに生きたいのに、中途半端にしか生きられない。そんな自分が好きになれず、自分に対するいらだたしさや悔しさを抱いていた。そんな思いに答を与えてくれたのがラグビーであった。
 ある意味で私は、表舞台でラグビーをする機会を得た。しかしそんな中にも、ケガとの戦いや、チームメイトとの葛藤、衰えとの戦い、ラグビーを捨ててしまおうと思った出来事なども経験した。だからとは言わないが、私にも一本目になれなかった良樹の想いがわかるような気がする。
 いつも近くにあるけれど、でもとてつもなく遠い、そして最も尊く美しいジャージ。あのジャージを着たい、あのジャージを着て花園の芝を走りたい、その思いは私にも十分に理解できる。一本目に対して必ずトライするんだと臨んだファイナルマッチ。その想いは、想いを知るものたちによって叶えられる。
 表舞台ではないけれど、そこにはまぎれもなく輝いている青春の主人公がいる。グラウンドで泥と汗と涙にまみれ、男に成長していく少年の姿がある。まぎれもなく生きていると、命を鮮やかに燃やしながら、青春の王道を歩む若者の姿がある。そして、ライバルであり、敵であり、誇りを持てる仲間であり、何よりも彼の心を知る友が、共に清めたジャージを着、グラウンドを駈けた時、良樹はどんな思いで、ボールと友を追ったのだろう。
 あれから20年以上の時を経て、高校時代のラグビー仲間たち(この本のメンバーたち)と少年のように語る大元氏に出会い、私の心も現実のしがらみを離れ、少年のようにはじけた。
 もう一度この言葉を言おう。「ラグビーは少年を最も早く男にし、男にいつまでも少年の心をいだかせる」と。


中学から高校時代の小説ですが、ラグビーにかけた青春が鮮やかに描かれています。
各書店で発売中です。

(本文は大元夏樹氏著「ファイナルマッチ ノーサイドの時を迎えて」〈文芸社刊〉に『刊行によせて』として掲載されています)

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